中国客車の基礎知識

 中国客車の車体には、上の写真のような記号と数字が記載されています。
 鉄ヲタであれば誰しも、KDって何?とか25Gって何?と、これらの数字や記号の意味するところが気になって仕方がなくなるはずです。「クモハ」や「オロネ」の意味を知ることは、日本の鉄ヲタにとってはイロハのイですもんね。
 このコーナーでは、この中国客車に記載された記号や数字の意味を主に解説し、それに付随して代表的な車種を紹介していこうと思います。
 これさえマスターすれば、貴方も立派な中国鉄の仲間入り・・・かも。



では、具体例を挙げて説明してみましょう。
上の写真を見てください。
RZ25T111026とアルファベットと数字、漢字が並んでいます。
これを分解すると

@RZ A25 BT C111026 D軟座車 RUAN ZUO CHE

と5つの部位に分けることができます。

@頭のアルファベット2文字で車種を表します。
この場合のRZは軟座車、日本風に言えば一等座席車を意味します。Dを見ていただくと分かるように、軟座車の中国式発音表記は「RUAN ZUO CHE」。
なのでRZの表記は、軟座を表す「RUAN ZUO」から頭文字を一文字づつ拝借したものと分かります。車種を表すアルファベット表記は一部の例外を除き、このように車種を中国式に発音した場合の頭文字にあたるアルファベットを二文字とったものとなっています。
各車種の紹介及び、その表記についてはこのコーナー下記にて詳しく行います。

A系列を表します。
この場合、日本風に言えば25系客車ということになります。中国国鉄に存在する各系列については、別項にて細かく解説していますので、そちらをご覧ください。

B各系列はその用途や車体構造により細分化され、アルファベットの記号により区別されることがあります。
無理やり日本風に例えるならば、この場合25系のT番台とでも言いましょうか。

C6桁の数字は客車固有の車番となります。
十万の位の数字、車種を表します。この場合は100000代なので軟座車を意味します。車番による車種区分の詳細についてはこのコーナー下記で解説を行います。



中国客車の車種紹介

YZ 硬座車-Ying Zuo che
 中国国鉄でもっともありふれた、日本でいえば普通車「ハ」に相当する客車。ただし、日本では普通車は普通車でも、短距離を走る通勤電車のロングシート車から、比較的長距離を走る特急用のゆったりリクライニングシートのクロスシート車までさまざまなタイプがあるのに対して、中国では2泊3日かけて走る長距離列車であっても、短距離のローカル線であっても、車内設備はほぼ変わらず、「硬座」の名に違わぬ、ほとんどクッションのない硬いクロスシートが、2列3列に配置されています。
 運賃は物価の安い中国列車の中でも破格に安く、上野〜札幌にあたる1214.9kmを乗車したとしても空調車で154元(約2310円)、非空調車ではなんと約88元(約1320円)となります。
 ただし、値段の安さにつられて、うっかり乗らないのが身のため。この写真はローカル線のため、車内に乗客も少なく牧歌的な雰囲気に満ちていますが、幹線の長距離列車に乗ろうものなら座席指定など無きに等しく、2人がけに3人、3人がけに4人座るのは当たり前。通路にも人があふれ、トイレに行くのも一苦労。
 そのトイレにはウ○コの山が築かれ、やっとのことで用を足して席に戻ると、ちゃっかり立ち席の客が腰掛けていて、どかすのに喧嘩。日本人と分かれば、乗客は興味津々で、質問攻めに遭い、ゆっくり車窓を楽しむ暇もありません。ようやく目的地に辿りついたときには、疲労困憊して体調を崩すこと請け合い。これでは何のために宿代をケチったのか分かりません。
 最近は長距離を走る車両には空調付の新型車が増えて、硬座の旅も一昔前に比べれば幾分快適になってきたようですが、それでもやっぱり夜行はきついですよ。
最旧式車両、硬座22系、非空調車の車内です。
さすがに最近はこのタイプの車両が長距離運用につくことは少なくなりました。
通路に設置されたボイラー。
石炭式で、車内にお湯を供給します。

RZ 軟座車-Ruan Zuo che
 日本でいえば、「ロ」に相当する車両で、北京〜天津、上海〜南京、大連〜瀋陽など、幹線を比較的短距離を日中に走る車両に連結されることが多いです。このため、長距離を走ることが多い中国国鉄にあっては、この車種自体レアで、なかなかお目にかかる機会がないかもしれません。
 座席は2人がけの向かい合わせ式クロスシートで、シートピッチも硬座車に比べればだいぶゆったりしています。ただ、座席がリクライニングするわけではないので、長時間の乗車はつらいものがあり、座席の居住性は、日本の特急の普通車のほうが上かな?という印象です。
 客層は、出稼ぎ労働者や貧乏学生が中心の硬座車とは全く異なり、ビシッとスーツを着こなしたエリートサラリーマンやOL、裕福そうな高級幹部が中心で、日本よりも資本主義的な中国特色的社会主義理論の現実を見せ付けてくれます。
北京〜天津を結ぶ「神州号」の軟座車車内です。

YW 硬臥車-Ying Wo che
 日本で言う「ハネ」に相当する客車です。日本では寝台列車は廃れ行く存在ですが、国土が広く長距離列車の多い中国では鉄路の主役ともいえる存在で、料金もリーズナブルなため、旅行者にとっても比較的お世話になる機会が多い車両でしょう。
 難点は切符が取りづらいこと。使い勝手のよい車種ですが、それだけに人気は高く、春節、労働節、国慶節などの大型連休に合わせて移動する際は、要注意です。

 車内は特別な車両を除き、幅60cm三段ベッドが並ぶ開放式寝台で、データの上での居住性は昔の日本の20系寝台車とほぼ同じくらいでしょうか?下段と中段のベットにあたったときには窓から車窓風景も楽しめますが、上段になってしまった場合には外が全く見えないのがつらいところ。
標準的な硬臥車の寝台。
三段式ベットが並びます。

RW 軟臥車-Ruan Wo che
 日本でいえばA寝台「ロネ」に相当する、中国でもっとも高いクラスの車両で、室内は2段ベットが二つ並んだ4名1室のコンパートメントとなっています。とはいえ寝台幅は70cmと日本のB寝台と同じで、考えようによっては日本のB寝台車に扉をつけた程度と言えるかもしれません。定員は旧型の22系列では8室32名、22系よりやや車長の長い新型の25系列では9室36名となっています。
 通常、長距離を走る快速以上の列車に1両だけ、主に編成連結中央の食堂車の隣に連結されていますが、最近では所得の上昇もあり、2両以上連結されている列車も増えてきているようです。始発駅と終着駅をノンストップで結ぶ直達特快(Z特快)の中には食堂車以外は全車両軟臥で編成された豪華列車もあります。

 軟臥車の上をいく設備を誇るのが、高級軟臥車。1室2名のコンパートメント車で、定員わずか16名。それぞれのコンパートメントに専用のトイレと洗面台のついた、まさに走るホテルに相応しい設備を誇っています。
 もともとは北京〜モスクワ、北京〜平壌を結ぶ国際列車にしか連結されていない特別な車両でしたが、最近は、大都市間を結ぶ特急列車や、直達特快を中心に連結される車両も増えているようです。
 料金は軟臥車の約1.75倍と高額で、同距離を結ぶ飛行機に匹敵する値段のため、利用者はピークを除くとあまり多くはありません。しかし、そのため一人旅でも1室を1人で占有できる可能性が高く、誰に気兼ねすることなく、車窓をのんびり楽しむには最適な車両といえます。
標準的な軟臥車の車内。
4人一室のコンパートメントになっています。
コンパートメントのドアが並ぶ軟臥車の通路。
寝台にビデオを装備している車両もあります。
何チャンネルかあり、洋画や中国映画を寝ながら楽しめます。
高級軟臥車は各部屋のトイレと洗面台を装備しています。

CA 餐車-Can che
 日本では、ほぼ全滅した食堂車ですが、走行時間が1泊2日、2泊3日の長距離列車が当たり前の中国では、いまだに健在。
 メニューは中華の定番料理が中心で、値段は一品200円〜400円と町中のレストランに比べるとやや高めということもあり、利用率は芳しくありません。それでも、乗客のための食堂という本来の役割のほかに、車内販売用の弁当の製作基地、列車員の休憩、食事提供の場所などの役目もあり(どちらかというと、こっちがメイン。つまり乗客のためというより、職員のためについているわけ)、どんなに利用客が少なくとも、今後も食堂車が連結を外れることはないでしょう。
 食堂車のレベルは、列車や、所属する鉄道局によって千差万別。きちんとしたメニューを用意してレベルの高い料理を提供する「当たり」の食堂車もあれば、殴り書きのなげやりなメニューを用意して、こちらが注文をすれば「できません」の連発、出てきた料理は高くて不味い、という食欲減退系の食堂車もあります。
 今回乗る列車の食堂車は、そのどちらか?
 そんなことを考えるのも、中国鉄道旅の楽しみの一つです。
旧式食堂車CA23形の車内です。
これはどちらかというと食欲減退系の食堂車です。

双層車-Suang zong che

 中国では二階建て車両のことを双層車(shuang zong che)と言います。日本に比べて車両限界の大きな中国では、双層車は比較的ポピュラーな存在で、自重が重いこともあり、高速、長距離の運転には向きませんが、その収容力を生かして短距離列車を結ぶ列車を中心に活用されています。
 車種も豊富で、硬座車、軟座車、硬臥車、軟臥車、餐車と主要車種は各種取り揃えています。
 二階建て車両を表す記号は双の中国語発音Shuangの頭文字を取った「S」
 「SYZ(双層硬座車)」「SCA(双層餐車)」のように、本来の車種を表す記号の前にSをつけることで、その車両が二階建て車両であることを表します。 
二階建て硬座車 SYZ25B
二階建て餐車 SCA25K

XL 行李車-Xing Li che  UZ 郵政車-yoU Zheng che
 食堂車と同じく日本ではすっかり廃れてしまった車種に荷物車、郵便車がありますが、道路事情が悪い地域が多く、鉄道輸送の盛んな中国ではどちらの車種も未だに健在です。

 荷物は中国語で「行李」といいます。つまり荷物車は中国語では行李車となります。行李車の略称XLは、行(Xing)李(Li)のそれぞれ頭文字を取って付けられたものです。

 郵便車は中国語では郵政車。郵政は中国式発音表記をするとYou Zhengとなりますが、他の車種と同じように頭文字を二つ取るとYZと硬座車と同じになってしまうので「郵You」の末尾のuを取ってUZにしたようです。このあたりの事情は日本の配給車の「ル」(くばるの「る」)と同じですね。

 長大な客車編成の後ろに荷物車や郵便車がぶら下がった日本では懐かしい光景を当たり前のように見ることができるのも、客車全盛、鉄道輸送全盛の中国ならではの魅力の一つ。
 最近では、最高速度160kmで走る高速郵便専用列車も登場したそうで、まだまだ鉄道輸送全盛の時代は続きそうです。
22系行李車 XL22
25K系郵政車 UZ25K

KD 空調発電車-Kong tiao fa Dian che
 快速用の25G系や特急用の25K系に存在する空調電源車は、日本にたとえるとブルートレイン用の電源車、「カニ」や「カヤ」に相当する系列で、車内に大型のディーゼル発電機を搭載し、各車両に主に空調用の電源を供給します。
 車体各所に取り付けられたエンジン冷却用の通風孔が特徴的な車両です。
 
25G系空調電源車 KD25G

合造車
 一両の車両を区切って、複数の用途で使用する合造車は、日本では比較的輸送量の少ないローカル線を中心に、今でも見ることができますが、輸送効率という文字を知らなそうな中国国鉄では、合造車自体が非常に稀少な存在です。
 それでも
軟、硬座合造車RYZ
軟、硬臥合造車RYW
軟座、硬臥合造車RZYW
軟座、行李合造車RZX
行李、郵政合造車XU

 などの存在が確認されています。 まだ探せば他にあるかもしれません。
軟、硬座合造車 RYZ22

事業用車各種 GW SY WX 他
 上記で紹介してきた車両の他にも、事業用車として意外に多くの車種が在籍しています。
 代表的なところでは、共産党幹部の専用車として使用される公務車(Gong Wu che 「GW」、各種の測定試験に使用される試験車(Shi Yan che 『SY』、レールの検査に使用されるその名のとおり軌道検査車『WX』などが挙げられます。
 公務車は、共産党幹部専用の避暑地のある北戴河行きの車両の最後部に連結されることがあり、比較的見かける機会の多い車種ですが、警備は厳重で写真でも撮ろうものなら何をされるか分かったものではありません。その他の車両は車庫の片隅で眠っているものがほとんどで、いづれも滅多にお目にかかれない貴重な車両といえます。

 明らかに現存しないものも混じっていますが、下記に事業用客車に割り当てられた車種記号の一覧表を挙げておきます。

厨房車 CF 文教車 WJ
公務車 GW 特殊車 TZ
医務車 YI 代用座車 ZP
衛生車 WS 代用行李車 XP
試験車 SY 簡易座車 DP
維修車 EX
軌道検査車 WX
鉄道博物館に保存されているGW97336号。
かつての周恩来専用客車です。
事業用客車の一つ。試験車SY25形。




中国客車の付番法則
18系の硬臥車
YW18 668400
19T系の軟臥車
RW19T 554067

 中国国鉄客車の車番は、郵政車など一部の例外を除き6桁の数字で構成されています。数字の意味は十万の位の数字で車種を区別する仕組みになっている単純なもので、その内訳は下記のとおり。

7000〜9999 郵政車
100000〜109999 合造車
110000〜199999 軟臥車
200000〜299999 行李車
300000〜499999 硬座車
500000〜599999 軟臥車
600000〜799999 硬臥車
800000〜899999 餐車
900000〜999999 事業用車
 この一連の番号は系列に関係なく用途ごとに製造順に付番されてくルールのようで、日本の私鉄車両のように車番によって明確に系列を区分をしてはいません。よって、車番だけを見て、これは「・・系」と判断することはできないということになります。

 ところで、中国客車の車番をつぶさに観察していると気がつくことがあります。それは、軟座車は110000代、荷物車は200000代、硬座車は330000,340000代、軟臥車は550000代、硬臥車は660000,670000代、餐車は890000代、空調発電車は990000代の車両が多く(というかほとんど)、十万位だけでなく万位も、車種によって使用する数字がほぼ決まっているように思われることです。これはいったいどういうことでしょう?

 実は、これ、2003年まで中国客車が5桁車番だったことが影響しているようです。
今でも、側線などに留置されている使用されなくなって久しい旧型客車などに改番前の5桁車番の客車を見かけることがあります。
北京鉄道博物館横の側線に放置されている客車。
CA18 90418

5桁車番です。

下記、2003年7月に改番される前の分類表と、改番後の車番対応表になります。
用途 改番前、車番 改番後、車番
合造車、下記以外 1〜999 →+100000
軟座、硬座合造車 1000〜1999 →+100000
行李、郵政合造車 2000〜2999 →+100000
行李車 3000〜6999 →+200000
郵政車 7000〜9999 →改番せず
軟座車 10000〜19999 →+100000
硬座車 20000〜46999 →+300000
軟臥車 50000〜59999 →+500000
硬臥車 60000〜89999 →+600000
餐車 90000〜94799 →+800000
事業用車 95000〜99999 →+900000

中国鉄路発足後、長らくこのルールに則って付番されていましたが、この付番方式は後に行き詰まりを見せることになります。硬座車の増備が続き、とうとう46000代まで到達してしまったのです。このままでは、番号があふれてしまいます。そこで、2003年7月。中国鉄路局では、客車の車番を一桁増やし6桁車番とすることでこの問題を解決することにしました。

これに併せて既存車両についても5桁→6桁化改番が行われました。改番方法は、元の車番の十万位に数字を付け加えるだけの簡単なものです。具体的には、軟座車は「1」、荷物車は「2」、硬座車は「3」、軟臥車は「5」、硬臥車は「6」、餐車は「8」、事業用車は「9」を付け加えて6桁化しています。

これが、十万位だけでなく万位も車種によって特定の数字を使用しているように見える理由です。
北京東駅に留置されている事業用客車
SY22 997523
旧車番を書き換えた跡が残っています。