5.西八丁目〜琴似駅前 「西八丁目」電停を出発した電車は鬱蒼とした森の中を走る。大通西八丁目から大通公園の西端にあたる西13丁目までは市電開通を機に「大通公園やすらぎのひろば」として整備され、アカシヤ・ニセアカシヤ・白樺・からまつなど北海道ではおなじみの木々が植えられ、ちょっとした植物園のようになっている。公園内には人工的な川まで造られ、夏ともなればここで水遊びをする子供達を見ることもできる、都会の真ん中のお気軽納涼スポットである。緑豊かな車窓風景は乗客からすれば見ていて心が和むものだが、運転手にとっては、秋、落葉の季節には線路に降り積もる大量の落ち葉のせいで空転が発生しやすいため、運転には細心の注意を払う区間だという。
電車は石山通アンダーパス直上にある「裁判所前」電停に到着。国道230号線、通称石山通は定山渓、中山峠を越えて札幌と道南を結ぶ幹線道路だけあって、交通量は非常に多く、朝夕の道路渋滞の名所である。東西線開業当初、電車はここで石山通と平面交差していたため、必ずといっていいほど信号待ちを強いられスピードアップの障害になっていたのだが、平成元年に念願の石山通アンダーパスが完成。電車のスピードアップが達成されるとともに、石山通で分断されていた「大通公園やすらぎの広場」も一体化された。「裁判所前」電停付近には、電停名どおり高等裁判所、簡易裁判所、家庭裁判所など司法関係の施設が集中しているほか、道庁の第三合同庁舎もあり、ここでの乗降客は多い。
西十六丁目・医大病院前←裁判所前→西八丁目 西八丁目電停のある大通西八丁目の一角は、大通公園の中でも緑豊かなところ。付近にはホテルが目立ち、ここで下車する観光客も多い。もちろん有改札電停である。
裁判所前を過ぎると、ビルの数が目立って減り、それに代わって空が広がりをみせ、札幌都心部を抜けたことを知らせてくれる。やがて、車窓前方に密に茂った木々の間を見え隠れしながら、重厚な石造りの洋風建築が近づいてくる。大通公園の西端、大通西13丁目に大正15年の建築以来、用途は変われども、変わらぬ姿で鎮座する札幌市資料館である。電車は資料館の脇を掠めるように通り過ぎると、西14丁目の交差点から道路の中央に飛び出した。
「次は、西16丁目・医大病院前。西16丁目で下車のお客様は、いちばん前のドアよりお降り下さい。その他のドアは乗車のお客様専用となります。下車のお客様はご利用できませんのでご注意下さい。次は西16丁目・医大病院前です」
併用軌道区間に入ると同時に下車口を知らせるアナウンスが入った。札幌市電は都心部に多い有改札電停では全てのドアから乗降可能となっているが、道路上にある無人電停では、下車時に運転手が切符の集札を行うため、運転手のいる最前部ドア(ラッシュ時に限ってはアルバイト車掌の座る最後部ドアからも下車可)からしか下車できない。不案内な乗客はとまどうことも多いだろう。
「ピンポーン」、車内アナウンスが終わるのとほぼ同時に誰かが降車ボタンを押したのか、ベルの軽やかな音が車内に響く。各地の市電やバスでおなじみだが、東西線では新札幌からここまで乗車してきて初めて聞く。先程までの取り澄ました最新LRT路線の顔はどこへやら、こうした小道具が、チンチン電車風情をいやがうえでも盛り上げる。心なしか乗客の表情ものんびりと和らいだように見えてくるから不思議である。
大通公園西端から円山公園まで続く大通上の併用軌道区間は道路幅員の関係からか、残念ながら車道と分離されてはいない。そのためか時折ボーッ、ボーッと独特の警笛を響かせながら電車は進んでいく。
長生園前←西十六丁目・医大病院前→裁判所前 札幌市交通局では最も長い電停名をもつ駅として有名。付近には医大病院をはじめと病院が集中し、一日を通して乗降客が多い。
西15丁目交差点で2系統山鼻西線の線路を南に分岐してまもなく、電車は札幌市電で最も長い電停名を持つ西16丁目・医大病院前に着いた。全国的にも珍しい・付きの電停名だが、こうなったのは以下の歴史的経緯から。市電東西線の母体となった市電一条線は、大通より一本南の南一条通りを走っており、この時の電停名は目の前にある医大病院を冠した「医大病院前」であった。ところが、市電東西線開業時に電車は大通沿いに路線付け替えが行われた結果、医大病院とは若干離れてしまったため、電停名も西16丁目に変更された。しかし、病院への通院客への便を図るため旧電停名の復活を望む声も多く、昭和58年に現電停名に改称されたというわけ。「にしじゅうろくちょうめ・いだいびょういんまえ」は・も含めるとなんと22文字で、改称時は日本一長い駅名として話題となった。なんでも病院への通院客が多い電停だけに、電停名のように長寿を願うという意味も込められているとのことだが、昨今は話題作りのためか各地で長ーい駅名が誕生したため影が薄くなりつつある。
西16丁目・医大病院前では札幌を代表する大病院への最寄り電停らしく、車椅子のお客さんの乗車があった。こんな時に力を発揮するのがホーム嵩上げ電停である。東西線は併用軌道区間も含めて全区間で電停の嵩上げが行われていて、電停と電車の床面が一致しているため、また電停の入り口もなだらかなスロープになっているため、車椅子利用のお客さんでも人の手を借りずに乗降することが可能である。車椅子利用者でなくても、例えばお年寄りや赤ちゃんを乳母車に載せたお母さんにとってもステップを一段一段登るのはしんどい作業であるため、ホーム嵩上げ電停は嬉しい設計であろう。
西二十三丁目←長生園前→西十七丁目・医大病院前 円山公園←西二十三丁目→長生園前 大通と西20丁目通りの交差点にある、電停。昭和55年までは、ここから北、札幌駅方面へ向かう三系統が分岐していたが、今はない。 旧「琴似街道」。東西線開業時に円山公園電停がバスターミナルと統合された結果、電停間隔調整のため現在地に移設、改称したものである。円山の街の中心に位置し、無人電停ながら乗降客は多い。
西十六丁目・医大病院前を出てから、いくつか交差点を越えるが、すべて信号は青。電車優先信号がうまく機能しているからだろう。札幌市独特の碁盤の目の都市設計のせいで、札幌市内は交差点が非常に多いが、東西線開業とともにほとんどの交差点で、一般車右折禁止と電車優先信号の設置が行われ、併用軌道区間といえども市電にとって快適な走行環境が保たれているのは有り難い。とはいえ、東西線の西側区間、大通電車センターから琴似駅前まで7.1kmに現状では平均所要時間21分を要しており、表定速度は19.8km/h。国内の路面電車としては充分すぎるスピードだが、それでもなお欧米諸国のLRTに較べればややものたりない数字である。先にも述べたように併用軌道区間では降車時に運転手が改札を行うため、乗降客の多い電停で降車に時間がかかってしまうことが主な原因であるが、ここは欧米風に信用乗車制度を導入するか、香港などで実用化されている非接触式カードでの運賃収受システムを導入するか・・・。過去にはパッセンジャーフロー方式という運賃収受システムを真っ先に導入した実績があるだけに、札幌ならではの新しい運賃収受システムを確立してさらなる電車のスピードアップにつなげてほしいものである。
西二十丁目の交差点を抜けるとすぐ、最寄りの老人ホーム名を取った長生園前に到着。ここから円山公園までは、旧一条線時代そのままのルートを走る。一条線時代には住宅が多かったこの界隈も、東西線琴似開業とともに様変わりし、会社事務所やマンションが建ち並ぶごく普通の町並みになってしまった。昭和51年まではここから西20丁目通り、北5条通りを通って札幌駅まで結んでいた3系統が分岐していたが、市電東西線の開通とともに廃線となり今はない。
長生園前を過ぎたあたりから、沿道に街路樹が植えられ、洒落たレストランや喫茶店が増え始める。このあたりから、円山公園にかけてのエリア、特に電車の通っている大通の一本南、通称裏参道と呼ばれる南一条通りは、古くから商店街が集まっていたところだが、十年ほど前からブティックやレストランが集まりはじめ、ファッションの街としての顔も持つようになった。とはいえ、そこだけ時が止まったかのような古い商店もそこかしこにまだ健在で、円山の街並には新旧が混然と混ざり合った不思議な魅力がある。西二十三丁目電停は、そんな円山・裏参道地区の中心に位置する電停で乗降客も多い。もともとは、この電停は琴似街道と称し、現在よりも一つ西、道道西野白石線との交差点にあったが、後述の円山公園電停の移設時に停留所間隔の調整のため現在地に移動、あわせて西二十三丁目に改称したものだそうだ。
円山の中心街を抜け、車窓正面にいよいよ円山公園の緑の森が近づいてきたところで、電車は唐突にそっぽを向くように右折、長らく走ってきた大通と別れを告げて、専用軌道上の円山公園電停に入った。円山公園電停は、二面二線と電車の駅自体は小さいものの、山鼻・啓明・宮ノ森・山の手など円山周辺の各方面への向かうバスのバスターミナルも隣接していて、ここでバスへの乗り換える乗客も多い。現に私の乗っている電車もこの駅で半分ほどの乗客が降り、車内は一気に空席が目立つようになった。休日ともなれば一月の神宮参詣、四月の花見など四季折々の姿見せる円山公園へ向かう行楽客でまた違った賑わいを見せるのであろう。
表参道←円山公園→西二十三丁目 設計東西線の西側区間では琴似に次ぐ乗降客数を誇るバスターミナル併設の有人駅。東札幌車庫行きの1系統や、東電車センター行きの9系統の折り返し駅になっていて、構内には折り返し時に使用する渡り線や留置線が併設されている。
もともとこの円山公園電停はこの先百メートルほど大通を直進した、円山公園のちょうど入口にあたるところにあった小さな無人電停だったが、琴似駅前までの路線延伸時に現在地に移設されバスターミナルとパークアンドライド用駐車場を併設する、駅員配置の有改札駅へと変貌を遂げた。
(以下続く)
写真@
大通公園を横断する国道230号線石山通り。架空世界では、石山通りはここでは地下に潜っています。ちょうど、このあたりに裁判所前電停があると想定。写真A
逆光写真で申し訳ございません。大通公園西端にあります、札幌市資料館です。もともとは高等裁判所として使われた建物だったそうです。写真B
大通西14丁目から円山を望む。架空世界ではここから道路の真ん中を走ります。写真C
仮想西十六丁目・医大病院前付近の光景。写真D
仮想西23丁目電停付近。西二十丁目から円山公園までは、昔市電が走っていた時の名残なのか、写真のように道路中央に街路樹が植えられている。写真E
円山公園バスターミナル。市電東西線の円山公園駅は、このバスターミナルの位置にあると想定しています。大通を走ってきた電車は丁度写真の矢印のように右にカーブして専用軌道に入り、丁度バスが停車しているあたりにあるプラットホームにすべりこみます。