札幌市交通局 A1100形

 昭和48年(1973年)の市電東西線一部開業時に投入された東急車輌製の三車体連接車。東西線はほぼ全線が新規開業区間で、在来の市電路線を改良した南北線に較べて車輛規格が広がったため、それに併せて車体幅2698mmの幅広車体を持つ1100形車輛を新製することとなった。車体は当時東急車輌で車体のみ製造が進められていたアメリカのボストン・サンフランシスコむけの新形路面電車、いわゆるSLRV(Standard Light Rail Vehicle)がベースだが、窓は固定式となり暖房装置が強化されるなど極寒冷地札幌の規格に合うように、各種の改良がなされている。アメリカ向け車輛とのその他の目立つ相違点としては、出入り口が片側五箇所の左右対称車体となったこと、地下区間を走行するにあたって、日本のA-A基準を満たすため前面に貫通扉が設けられたことがあげられる。この車の大きな特徴の一つはサンフランシスコ向け車輛と同様に空気圧による可変式ステップを設けていることで、これにより地下区間の高床式ホームにも併用軌道区間の低床式ホームにも対応可能となっている。また南北線用のA1000形と同じく路面電車車輛としては珍しく連結器を装備しており、将来の乗客増に備えて連結運転も可能な構造となっていた。

 アメリカ向けのSLRVはボーイングバートル社製のチョッパ制御の電装品が故障を頻発し、稼働率が非常に低かったため失敗作のレッテルを貼られてしまったが、札幌市交通局向けのこの1100形は、南北線用のA1000形で実績のある、自動加速制御のカルダン駆動を採用したため、性能的には平凡ながら故障も少なく稼働率は良好で現場の評判は上々であった。同一機器を使用しているため一応南北線用のA1000形とも併結可能ということにはなっているが、運用実績は出入庫運用以外にはほとんどない。余談だが、SLRVの故障に手を焼いた、ボストン・サンフランシスコ両市電は、後にこの札幌市交1100形と全く同一の日本製の機器を載せた改良型車輛を後に購入している。

 A1100形は昭和48年の東西線円山公園〜東札幌(旧)開業時に15編成投入されたのに続いて昭和53年の菊水〜新札幌電車センター開業時にさらに31編成が投入され合計で46編成を数え札幌市電一の大所帯となった。この新札幌開業時より、ラッシュ時の円山公園〜大谷地間で連結運転が始まっている(但し併用軌道上の中央小学校前電停は通過)。

 A1100形は札幌市電の代表車として、東西線や平岸、山鼻西線のラッシュ時など東西線系統の各線で活躍し(南北線系統には車体幅の関係で入線できず)、札幌市電の近代化に大きな役割を果たしたが、近年東西線用に新型車3100系が登場し、一部車輛の廃車が始まっている。