2.大谷地〜ビール工場前
南郷21丁目←大谷地→ひばりヶ丘
 新札幌を発車した直行電車の最初の停車駅がここ大谷地。バスターミナル直結形の駅員配置駅で、駅に隣接して大規模な駐車場設備を持つパークアンドライドの拠点駅でもある。ホームは乗降2面4線を有し、うち一番線と四番線が直行用。二番線と三番線が各停用となっていて、この駅で直行が各停を追い抜くようなダイヤが組まれている。また留置線の先には市電大谷地車庫・工場があるため、ラッシュ後には、大谷地止まりの入庫系統が設定されている。
 
 大谷地駅は新札幌発の直行電車の最初の停車駅で、バスターミナルを併設し二面四線を有する東西線沿線ではかなり大きな駅である。当然ホームには上屋があり、改札は自動改札機によって行われている、東西線特有の市電の電停らしくない電停である。隣のホームには先行していた円山公園行きの各駅停車が停車中であった。そう、ここ大谷地では直行電車が各停を追い抜くのである。主に道路上を走るという性格上、ダイヤが不正確になりがちな市電において、追い抜きを伴う急行運転を行っている札幌市はかつての京阪京津線と並んで日本の市電としては希有な例といえる。ほぼ全線に渡り専用軌道が確保され、一部存在する併用軌道区間においても電車優先の施策が徹底されている札幌市電ならではの光景といえよう。

 各停からの乗り換え客だろうか、それともバスからの乗り換え客だろうか、はたまたパークアンドライドシステムを用いたマイカーからの乗り換え組であろうか、大谷地ではネクタイにスーツ姿の通勤客や学生服の集団がどっと乗り込み、車内には早くも空席が無くなってしまった。大谷地駅の乗降客は一日一万二千人。朝ラッシュ一列車あたり数十人という乗降客をものの二十秒程度で捌ききると、直行電車は隣のホームに停車中の各停を後目に速やかに発車する。いちいち、乗車時や下車時に車内で運賃を徴収せず、駅で改札を行う市電東西線ならではの芸当といえる。

 さて、パークアンドライドという言葉が出たところで、この札幌市電特有のシステムについて解説を加えたいと思う。パークアンドライドとは近年は日本でもおなじみになった、鉄道駅に併設して駐車場を作り、マイカーから公共交通機関への乗り換えを促すシステムのことを指すようだが、他の多くの都市ではただ駅と駐車場を設けただけという受動的なものが多い中、札幌市ではより能動的にマイカー利用者を公共交通に取り込もうとしているところに特徴がある。沿線の主要駅に大規模な駐車場を併設することまでは他の都市と同じだが、札幌市の場合は駐車券が、そのまま目的地までの切符代わりになり、さらには目的地周辺での市電・地下鉄・バスが乗り放題になるのである。例えば、大谷地の駐車場に車を泊め、大通まで向かうとする。すると駐車券がそのまま大通電車センターまでの切符になるほか、大通電車センターを中心とする都心ゾーン内、すなわち市電の東4丁目〜円山公園、や中島公園入口〜札幌駅前が乗り放題になる他、同じ切符で地下鉄南北線や西豊線の都心区間にも乗れてしまうのである。都心で目的を果たしたあとは再び市電で大谷地へ。駐車時間に応じて駐車場で料金を支払うシステムとなっている。

 札幌におけるパークアンドライドシステムは都心部で駐車場に悩むこともなくなり、かえって便利になったという声が多く市民の間ではおおむね好評のようであるが、導入時には紆余曲折あったようだ。それというのも東西線を高速路面電車として整備する際に、大通公園は電車を円滑に運行するため一部主要道路を除いて大通り公園を横断する南北方向への道路移動はできなくなってしまったからである。その見返りとして、また予想される渋滞を未然に防ぐために導入されたのが、このパークアンドライドシステムというわけ。時はモータリゼーション華やかなりし昭和40年代末期、全国各地で路面電車が続々と廃止に追い込まれている中で、一見時代に逆行するかのようなこの施策は、市内中心部に大渋滞を引き起こすとして反対も多かったのだが、蓋を開けてみるとこれを機に多くの市民がマイカーから市電に乗り換え、結果的に市内中心部の慢性的な渋滞が解消されたというから皮肉なものだ。パークアンドライド導入時には冷ややかだった他自治体も今では環境先進都市札幌市を見習えとばかりに、この札幌システムを導入予定のところが相継いでいるという。
  
 大谷地を過ぎると電車は道路から別れをつげる。ここから先、東札幌までの7.1kmは旧千歳線の路線付け替えに伴う廃線跡の上に建設された専用軌道区間である。道央自動車道をオーバークロスして、右手に大谷地神社の鎮守の森、左手に北星学園大学のキャンパスを眺めつつ、電車は水を得た魚のようにぐんぐん加速する。厚別川を渡りきりスピードメーターが70kmを指したところで電車は惰行に入った。旧千歳線時代のこの区間は、遮断機の無い踏切が連続して存在し、特に前方視界の悪い蒸気機関車の運転には非常に気をつかったそうだが、市電路線への移行の際に路線は全面的に改良され、主要交差点は全てアンダーパスもしくはオーバーパスへと立体化された。そのため、路面電車にしてはかなりの高速運転が可能となったのである。ちなみに、この大谷地〜東札幌までの専用軌道区間は法規上は軌道ではなく鉄道とされているが、これはもともと国鉄の路線であった名残とのこと。

 厚別川を渡ると風景は一変し、電車は住宅街の中へ。南郷栄20丁目という電停に停車する。20丁目とはなんとも札幌らしいインフレナンバーの電停名ではある。この先、南郷栄16丁目・13丁目・8丁目と頭に南郷栄を冠した電停が続くが、地図上には南郷栄という地名はない。実はこの南郷栄とは南郷通という地名と栄通という地名の合成名なのである。丁度南郷通と栄通の境界線上に線路が敷かれているため、沿線住民の要望を汲んで両方の名を取ったとのことで、横浜市営地下鉄の伊勢佐木長者町とか大阪市営地下鉄の喜連瓜破などこうした事例は各地の地下鉄に散見される。
南郷栄16丁目←南郷栄20丁目→大谷地
 国鉄千歳線から引き継いだ古びた木造駅舎を持つ電停。幅の広い一番線ホーム、広い駅前広場などに国鉄時代の面影が残る。勿論駅員配置駅で直行の停車駅でもある。駐車場も併設するパークアンドライド指定駅でもある。

 さて、この南郷栄20丁目だが、石組みの立派なホームに木造駅舎と、今までの電停とは大きく趣を異にする。まるで、蒸気機関車が走ってきてもおかしくない雰囲気である。それもそのはずで、南郷栄20丁目電停は旧千歳線時代の大谷地駅のホーム・駅舎をそっくりそのまま利用しているのである。もちろん自動改札・自動券売機などの最新設備が導入されていて、駅名も変わってしまってはいるが、駅舎は千歳線の前身である北海道鉄道時代、大正15年に建てられたものがそのまま残っている。時代がかった木造駅舎と最新型路面電車の組み合わせ。この新と旧が混在するアンバランスさもまた札幌市電の魅力の一つと言えようか。

 南郷栄20丁目を出発した電車は急阪を下るとアンダーパスで清田通の下をくぐり抜ける。東西線はこの専用軌道区間で、清田通りに限らず、この先、向ヶ丘通り、白石藻岩通り、水源地通り、など幾つかの主要道路と交差するが、その全てがアンダーパスにより立体化されているため、路線のアップダウンが非常に激しい。このため、東西線用には出力が75kwという路面電車としては破格の高出力のモーターを4機備えた専用の電車が投入されているそうだ。
南郷栄13丁目←南郷栄16丁目→南郷栄20丁目 南郷栄8丁目←南郷栄13丁目→南郷栄16丁目
 向ヶ丘通りとの交差部にある半地下構造の電停。簡単な屋根があるだけで簡素な作りである。  地上とは白石藻岩通りとの交差部にある、やはり半地下構造の電停。ここは、駅員配置駅で近年バリアフリー対策としてエレベーターも設置された。掘割区間にあるため、線路中央に除雪用の側溝がある。

 南郷栄16丁目という住宅街の中の小電停を通過すると電車は美しい桜並木のトンネルの下を走る。ここは東西線における電車撮影の名所として知られたところで、桜並木の下を走る電車の風景写真は鉄道雑誌などでもおなじみの光景だ。時はまさに4月下旬、北国の遅い春の訪れを待ちかねたかのような満開の桜並木ではあるが、残念ながらラッシュで混雑する車内から桜を観賞する余裕はない。明日あたり、花見にでも出かけてみようか?

 月寒川を渡り、白石藻岩通とのアンダーパスをくぐり抜けると直行停車駅の南郷栄13丁目。ここでまたどっと通勤客が乗ってくる。この先、ビール工場前電停の先までは、主要道路との交差が続くため、電車線路は道路面より一段下を走る半地下区間となっている。まるで掘割の中を走っているような区間、と言えば分かり易いだろうか?という事で車窓風景といっても壁が見えるだけで、面白くはない。まあ、毎日この電車を利用している通勤客にとっては車窓風景が面白くないといっても余り関係ないだろうが・・・。車窓風景は面白くないのだが、この区間は複線の線路と線路の間に大きな溝があるのが特徴といえば特徴だろう。冬場の積雪時は掘割のようになったこの区間には雪が吹き溜まることが多い。この吹き溜まった大量の雪を除雪する際に、この溝に温水を流すのだそうだ。ラッセル式除雪車が、除雪した雪をこの溝に落としていくと、落とすそばから雪が溶けて水になるという寸法。そんなわけで、この掘割から立ち上るもうもうたる湯気が札幌の冬場の風物詩の一つに数えられているとかいないとか。
ビール工場前←南郷栄8丁目→南郷栄13丁目 市電白石←ビール工場前→南郷栄8丁目
 水源地通りとの交差部にある半地下構造の駅で基本的な造りは南郷栄13丁目と同一。非常時に利用する渡り線を備えている。  アサヒビール工場の裏手にある小さな電停。もともと、ここに千歳線の月寒駅があったそうだが、当時の施設は全て撤去され往事の面影は全くない。
 南郷栄8丁目で、さらに通勤客を詰め込んだ電車は堀割区間を快走。やがて車窓右手に堀割の中からでも見えるほど大きな白壁の建物が現れる。アサヒビールの工場だ。ここの工場は試飲コーナーやビール園も併設していて、ちょっとした観光スポットになっている。夏場にはミュンヘン電車を使用したビール園までの貸し切りビール電車も運転されるそうだが、その乗車レポートはまた後ほど。ビール工場前という電停自体は小さな無人電停で、直行電車は、スピ−ドも落とさずに通過してしまった。

3.ビール工場前〜東4丁目へ
写真@

 地下鉄大谷地駅の一階にあるバスターミナルです。架空市電東西線はこの大谷地バスターミナルの裏手(写真上の矢印方向)のサイクリングロード上にあるという設定です。
写真A

 大谷地バスターミナル裏手のサイクリング道路(旧千歳線廃線跡)厚架空市電大谷地駅想定地です。
写真B

 白石サイクリングロードと道央道との交差部分です。このようにオーバーパスになっています。札幌市電もこの部分はオーバークロスでスイスイと進みたいものです。ちなみにこの写真の手前が新札幌側、奥が札幌側です。
写真C

 厚別川にかかるサイクリングロードの自転車専用橋。地図によると虹の橋といいます。道理でアーチ形をしているわけだ。この写真では奥が新札幌側、手前が札幌側です。
写真D

 仮想南郷栄20丁目地点で撮影したもの。右手に白石東冒険公園という公園がありますが、これは旧千歳線大谷地駅の跡地に作られたものだそうです。
写真E

 サイクリングロードと白石藻岩通りとの交差部です。仮想南郷栄13丁目付近ですね。サイクリングロードと主要交差点はこのようにアンダーパス化されています。市電もこのような形で立体化されていれば踏切に悩まされず高速運転できるはず。
写真F

 サイクリングロードは沿道に多くの桜の木が植えられていて花見の名所としても知られています。こんな桜のトンネルの下を電車が走ったら?想像するだけでもワクワクします。
写真G

 アサヒビール工場の裏です。仮想ビール工場前の電停はこのあたりになるはず。ちょうど旧千歳線の月寒(つきさっぷと読みます)もこの場所にあったそうです。