3.ビール工場前〜東四丁目
白石横町←市電白石→ビール工場前
 市電白石駅はビルの一階をトンネル状にくりぬいたような場所にある。大谷地と並んで、東西線東部区間の中心駅である。バスターミナル直結形、パークアンドライド指定駅、ホームは2面4線を有し、うち一番線と四番線が直行用、二番線と三番線が各停用など大谷地駅と設備面で共通点が多い。駅周辺はビルが建ち並ぶ繁華街である。
 
 ビール工場前を通過した電車は、白石中の島通りの下をくぐりぬけると、モーターを唸らせながらやにわに勾配を登っていく。今まで、目線のはるか上だった町並みや道路が、たちまちのうちに眼下に、この先は掘割区間から一転、今度は短いながらも高架線を走行するのである。望月寒(もつきさむ)川と環状通りを一気にまたぐための高架線ということだが、専用軌道区間に入ってからは短区間のうちに阪を登ったり、下ったりをくり返し、まことに忙しい線形である。ここまでアップダウンを繰り返すよりは、いっそのこと東札幌から大谷地まで高架線か地下線で統一すればとも思うのだが、東西線建設時の札幌市の財政状況からみてそれは無理だったのだろう。もしも当時札幌オリンピックが実施され、東西線の建設費見直しがなければ、そもそも東西線はフル規格の地下鉄として建設された可能性が濃厚である。この東西線の不自然なアップダウンは、その線形自体が当時の苦しい財政状況そのものを物語っているといえよう。もっとも東西線が地下鉄として建設されていたとしたら、札幌在住の鉄ヲタが「白石ジェットコースター」と親しみを込めて揶揄するこの楽しい車窓は存在しなかったわけで、世の中何が幸いするか分からないものだ。

 電車は片側三車線の環状通りを跨ぐと坂を滑るように駆け下り、ビルの一階部分をくり抜いて作られた薄暗い市電白石駅のホームに入った。この市電白石、もともと東西線開業時には「白石」を名乗っていたが、JRの白石とは直線距離にして約1.5kmも離れており、同じ駅名を名乗りながらも相互に連絡はなく、混同されがちであった。そこで昭和58年、頭に市電を冠して市電白石と改称したというわけ。もっとも、市民の間では市電白石というよりも電白(でんぱく)のほうが通りが良いようだ。東西線開業後に急速に発展した市電駅周辺も「でんぱく」地区の愛称で親しまれている。 「でんぱく」の一日の乗降客は一万二千人強。もちろんバスターミナル、パークアンドライドの駐車場を併設し、大谷地と並んで東西線東部区間の中心駅の一つに数えられる大型電停である。駅は二面四線で、この駅でも直行電車と各停の追い抜きが行われる。丁度、隣のホームには円山公園行きの各停が停車中で、そこからの乗り換え客がどっと乗り込んだ。おそらくこの時点で乗車率は180%といったところだろうか。新札幌から延々と乗客を飲み込み続けてきたこの電車は、この時点で、最早車内には立錐の余地もない。ただ、これでも東西線とこの区間平行する豊平線の地下化、路線延伸が行われてからは混雑はいくぶん改善されてはいるそうである。

 市電白石を発車した電車は、再び掘割区間に。でんぱく地区の喧噪が嘘のようにうら寂しい倉庫街の中を走行する。このあたりは、 もともと国鉄線時代に東札幌という大きな貨物駅があった名残だろうか、小さな工場や倉庫が建ち並ぶ地域である。北海道はまだ不況のただ中なのだろうか、日中は人影も少ないところだ。東西線全停留所の中で最も乗降客数が少ない白石横町は、そんな倉庫街の一角にある小電停で、私の乗った直行電車はブォーンという警笛音を鳴らしただけで脇目もふらず通過していった。
東札幌←白石横町→市電白石
 東西線全電停のうちで乗降客数が最も少ないのがここ白石横町である。電停付近は小さな町工場や倉庫が多く、人家は少ない。無論無人電停で、直行電車は通過してしまう。
 
 掘割の中の白石横町電停を通過すると電車は大きく右にカーブ。頭上に道路を二つ三つやりすごしたかと思うと、いつの間にかトンネルに入っていた。ここから東四丁目の手前まで、距離にして約3.1kmは東西線唯一の地下区間となっているのである。路面電車が都心の一部区間で地下を走るのは欧米ではとりたてて珍しくないが、日本ではこの札幌市交通局東西線がほとんど唯一の例だ。他にも京阪京津線の例があるにはあるが、あちらは路面電車が地下を走るというよりも地下鉄が一部区間路面を走るという表現が適切だろう。札幌にしても当初から路面電車を地下に潜らせるという発想があったわけではない。何度も語られているように、札幌オリンピックの誘致に失敗した結果、地下鉄東西線計画は頓挫。東西線は計画を当初より大きく方針転換して、建設費を抑えるため極力地上走らせることになったのだが、豊平川の西岸から旧千歳線東札幌までの区間のみ道路幅員や交通量、電車の速達性など様々な面から検討した渋々地下線を建設することにしたそうだ。いわば、この区間は実現することのなかった地下鉄東西線計画の名残りといえるのである。
菊水←東札幌→白石横町
 地上と地下の二重構造になっている駅で、地上ホームからは20系統平岸線が発着、地下ホームから1系統東西線が発着する。地下駅は半径160mのカーブ上にあり、湾曲したホームが特徴である。階段を上るとすぐ平岸線用のホームに出れるようになっていて、乗り換えには便利な設計である。米里行啓通方に渡り線が設けられており、冬季の降雪時に除雪が間に合わない場合は、この渡り線を利用して折り返し運転が行われる。
 電車は最初の地下駅、対向式ホームを持つ東札幌に到着した。カーブの途中にあるため、ホーム自体も左に大きくカーブしているのがこの駅の特徴である。もし走っている電車が普通の地下鉄サイズの大型車であれば、この構造ではホームと車輛との間にかなり隙間ができてしまうことは間違いなく、小型車体を用いた路面電車ならではの駅立地と言えそうだ。さて、この東札幌駅は地上ホームも持ち、そちらからは平岸駅前まで行く20系統が発着しており、それぞれのホーム間は階段で結ばれていて乗り換えは容易だ。もっとも20系統は都会の中のローカル線と言われるほど利用者は少なく、乗り換え客は余り多くはないのであるが・・・。「ゲーーーー」という一種独特な出発ブザー音とともにドアが閉まり電車は出発した。いくら地下駅とはいえ、こんなブザー音まで本格的な地下鉄である南北線と一緒だとは思わなかった。

 東札幌を出たところで電車はすぐ停止。車間調整のための信号待ちである旨の車内アナウンスが入った。恐らくは、この先で東札幌車庫前からの2系統の路線が合流するためであろう。2系統は東札幌車庫前から山鼻まで走る系統であるが、菊水〜市資料館前まで1系統と線路を共有している。そのため、この区間は朝のラッシュ時は平均1〜1.5分間隔の頻発運転となっているので電車同士の運転間隔を調整するという意味で、ここで信号待ちが入ることが多い。待つことしばし、ゆっくりと電車は動き出した。トンネル区間のため窓の外は暗くてよく見えないが、ゴトトトン、ゴトトトンという不規則なジョイント音が響き、3系統の路線が合流したことを知る。やがて二つ目の地下駅菊水に到着した。
東四丁目←菊水→東札幌
東西線で最初に開通した地下駅で、開業当初は将来本格的地下鉄にする計画があったため、南北線の地下駅とほぼ同規格の長いホームを持っている。現在はホームの東4丁目方を2系統、東札幌方を1系統が使用しており、長いホームを有効活用している。
 菊水もまた、東札幌と同様対向式ホームを持つ地下駅であるが、直線区間にあるため東札幌とは異なりホームは真っ直ぐ。また一般の地下鉄と較べても遜色ないほど長いホーム(南北線と同じ有効長120m)を持っているため、地下鉄の駅と言っても全く違和感がない。それもそのはずで菊水駅建設当時は、この地下区間に路面電車を走らすのはあくまでも暫定的な措置で、輸送需要が伸びれば本格的な大型車両に切り替える計画だったという事である。東西線開業時は、長いホームを持て余し気味だったそうだが、今ではホームの東4丁目方を1系統用、東札幌方を2系統用と系統によって停車位置を変えており、長いホームを有効活用している。

 菊水を出た電車は先ほどのノロノロ運転とはうって変わって、モーターの唸りも高らかに速度を上げる。トンネル内の認可最高速度は70kmだそうで、これは日本の路面電車の最高速度記録だろう。地下区間なのでよく分からないが、おそらくそろそろ豊平川の下をくぐり抜け中央区に入った頃だろうか?電車は左にカーブしながら速度を落とす。前方からは外の明るい光が射し込んでいるのが見えた。

 トンネルを抜けるとそこは雪国・・・・ではなく、道路の真中であった。トンネルを出ると併用軌道というシチュエーションは日本広しといえどもここ札幌だけであろう(まあ路面電車に地下区間があるのが前述のように札幌だけなので当然といえば当然なのだが・・・)。市電は、ここから先は終点円山公園まで札幌中心部を東西に結ぶ屋台骨、大通の上を走るのである。併用軌道とはいえ、大通の創成川以東(通称東大通)のこの区間は、軌道は道路中央に緑地帯で仕切られたセンターリザベーション方式を採用した準専用軌道区間となっている。市電東西線の前身である市電一条線時代は、大通の一本南の筋にあたる南一条通りを走っていたが、市電高速化を機に道路幅に余裕のある大通沿いに路線が付け替えられたというわけ。
テレビ塔前←東四丁目→菊水
 東大通上にある路面電停で、もちろん直行電車は通過してしまう。周囲は都心からすぐ近くにもかかわらず、高いビルは少なく静かな環境で、乗降客も多くはない。
 東大通は創成川を挟んですぐ大通公園という好立地なのだが、市街地が川で分断されているためだろうか。周囲に大きなビルは少なく、中心部の喧噪が嘘のような閑静な、悪く言えばややさびれた一角である。東四丁目は、そんな中にある小さな路上電停で、私の乗る直行電車はもちろん通過する。
 目の前のテレビ塔がだんだん大きくなってきた。いよいよ都心はすぐそこだ。

4.東四丁目〜西八丁目へ

 
写真@

 現実世界における地下鉄白石駅周辺。南郷通りと環状通りの交差点です。駅周辺は商業ビルやスーパーが建ち並び賑わっています。
写真A

 一方こちらが仮想市電白石駅付近。写真手前が札幌方。写真奥が新札幌方になります。サイクリングロードは写真のような陸橋で環状通りを跨いでいます。付近は静かな住宅街ですが、市電駅がここにできたとしたら、この付近に写真@のような繁華街が形成されていたはず?
写真B

 仮想白石横町付近。周辺は倉庫が多いものさびしい地域で白石付近の賑やかさとはうってかわって人の気配がありません。
写真C

 サイクリングロードの東札幌付近。この微妙なカーブが、いかにも廃線跡を物語っています。仮想東西線はこの辺りで地下に潜るという想定です。
写真D

 東西線菊水駅です。私の妄想の中ではここに路面電車が走っているのです。
写真E

 仮想東4丁目電停付近。この道の中央を市電が走っていることになっています。東大通は道幅が広く交通量はさほど多くないので軌道敷は簡単に確保できそうですね。