4.東四丁目〜西八丁目
大通電車センター←テレビ塔前→東四丁目
 その名の通りテレビ塔直下にある電停。都心部にあって乗降客も多いため、それに対応すべく幅広の島式ホームを持つ。改札口はテレビ塔脇にある地上出口のほか、地下街オーロラタウンと直結した地下出口もある。
 
 東四丁目電停を通過した電車は、しばらく車道と分離された東大通上を快走するが、大通公園に入る手前、石狩街道との交差部分で、残念ながら信号に引っかかってしまった。東西線は、併用軌道区間では電車優先信号の設置や、右折禁止など電車優先の施策がとられており、滅多に信号待ちはないのだが、片側四車線、札幌を南北に貫く大幹線道路である石狩街道は、さすがに別扱いで、ここだけは電車優先信号は導入されていないため、ここで信号に引っかかってしまうことが多い。このため、この創成川交差点は、東西線スピードアップの障害となっていて、東西線開業以来、立体交差化が何度となく検討されたらしいが、残念ながら未だに実現をみていない。そんな訳で、東西線利用者は未だに終点直前で信号待ちのイライラを強いられているのである。朝、ここで信号に引っかかるか引っかからないかでその日の運勢を占っている方もいるとかいないとか。

 信号が青に変わるとともに、電車は石狩街道を心なしか遠慮がちに横断し、大通公園の東端、「テレビ塔前」に到着。ここから、大通西10丁目、電停名で言うと「裁判所前」あたりまでが、人口180万人を数える北都札幌の中心地。大通公園を挟んで北側はオフィス街、南側がデパート・専門店などのショッピング街と、大まかに色分けされていて、朝ラッシュ時にはそれらへ向かう通勤客でごったがえす。私の乗った直行電車も新札幌駅前を出てから延々と吸い込み続けてきた乗客をここで初めて吐き出し今まで立錐の余地もなかった車内に僅かながらも余裕ができた。
 さて、その名のとおり大通公園のランドマーク、テレビ塔の直下にあるこの電停は、テレビ塔脇にある地上改札口とともに、地下改札口も持っているのが特徴である。地下改札口は、ここから大通電車センターまで続く地下街オーロラタウンや、創成川を挟んで東1丁目にある中央バスの長距離バスターミナルに直結していて、日中ともなればパークアンドライドシステムを利用した買い物客が、テレビ塔前と大通電車センター間を動く歩道を使うかのように気軽に電車で往復している姿を見ることができる。欧米のソレとは多少異なるが、冬の寒さの厳しい札幌ならではの立体トランジットモールと言えなくもない。

 乗客を多少降ろして軽くなった電車はテレビ塔前を出発。今までの高速運転とはうってかわって、大通公園の南端に確保された専用軌道をゆっくり、ゆっくりと、軌道に沿って植えられたアカシアの並木の木の葉一枚一枚を眺めることができるくらいのスピードで進む。電車は、ここから先、大通公園西端にあたる市資料館前まで約1.7kmは大通公園上を走るので、軌道を横断する歩道が多く交差点毎に信号が設けられているためと、この区間は多くの市電系統が集中するため、電車同士のダンゴ運転が起こりがちなことから生ずるノロノロ運転である。大通公園といえば、冬にはかの有名な雪祭り、6月のよさこいソーラン祭りを初めとする、様々なイベントが開かれ、また夏ともなればビール園がオープンする札幌市民の憩いの場だ。とりわけ、市電の電停でいう「テレビ塔前」から「大通電車センター」にかけての区間は、大通公園の中心というべきエリアで、初夏から秋にかけての日中ともなれば、観光客が記念写真を撮りあい、路上ミュージシャンが自慢の喉を披露し、疲れたサラリーマンが芝生に寝そべりつかの間の休息を取り、とうきび売りの露店のとうきび売りが声を張り上げる。電車は、そんな当たり前の札幌の風景を横目にのそのそと走っているのである。

 大通公園の中心である、この大通西一丁目から四丁目にかけての賑やかな一帯は、市電東西線開業後、最も姿を変えたところでもある。もともと市電開業前の大通公園は南北方向に伸びる西二丁目、西三丁目通りに、一丁刻みで分断されていた。しかし、市電開通に併せて、都心部からマイカーを積極的に排除し、市電・バスをはじめとする公共交通機関を円滑に運行するために、今度は逆に公園の敷地を今まで道路だった部分にまで拡幅して、西二丁目、西三丁目通りを塞いでしまい、市電以外の車輛の公園の南北方向への通り抜けを物理的に禁止してしまったのである。都心部の慢性的な交通渋滞や当時冬場に使用されていたスパイクタイヤによって発生した粉塵による大気汚染を解消し、公共交通への乗り換えを促すための手段であったが、全国各地で路面電車が廃止に追い込まれていた当時、一見時代に逆行するかのようなこの札幌の都市計画には賛否両論百出した。当初の市交通局の要求は、大通公園全域に渡る南北方向への道路交通遮断と札幌駅から中島公園間を結ぶ駅前通りの車の前面通行禁止であったが、さすがに余りにも過激すぎるとして、大幅に計画は見直され、結局現在の西二丁目、西三丁目、西五丁目通りの南北交通遮断と、石山通のアンダーパス化、大通公園における車の右折行為の禁止、そして公共交通への乗り換えを促すためのパークアンドライドシステムの整備するという形に落ち着いたのだが、それでも当時の状況下では大英断であり、全国の自治体はこの札幌市の賭けをかたずを飲んで見守ることになった。

 賭けの結果は皆さんもご存知の通り。積極的なマイカー排除策が功を奏し、多くの市民が東西線開通を機にマイカー利用から電車利用に乗り替わったっため、当初予想された中心部での交通渋滞もなく美しく再整備された大通公園は道行く人で賑わうようになった。この札幌市の成功はモータリゼーションの発達により当時市街地の無秩序な拡大の前に無策であった地方自治体に一石を投じるものとなり、後年札幌市で実現する西二丁目、三丁目通りトランジットモールとともに、以後日本各地で行われる既存市電の再生や、復活と絡めた都心部再生の試みの礎となったのである。

 私の乗るさっぽろ行き直行電車はテレビ塔前出発後、大通公園南端をゆっくり進み、西二丁目の電車の十字交差点を独特のジョイント音とともに通過したが、続く西三丁目の電車交差点で赤信号に引っかかってしまった。信号待ちをしている私の乗っている電車の目の前を、おそらく中心部循環路線10系統の車輛だろうか?黄色い車体の二軸単車が、ゆらゆらと単車独特の縦揺れをしながら横切っていくかと思うと、今度は鮮やかな緑色に塗られた真新しい豊平線用の三車体連接LRVが、長い車体を器用にくねらせながら曲がって、私の乗る電車の行く手である大通電車センター方向へ走り去っていく。テレビ塔前〜大通電車センター間、僅か450mほどの区間に、電車の十字交差が二ヶ所あるので、いきおい信号待ちが多発してしまう。多種多様な電車が見られるという事で、私のような鉄ヲタには、この区間に限って言えば、信号待ちはむしろ歓迎だが、一般の利用者にとっては考えものだろう。多くの系統が集中する区間だけに仕方がないとも言えるが、改善の余地があろうかと思う。

 件の真新しい豊平線用LRVが走り去ると同時に信号が青に切り替わって、私の乗る電車がゆっくりと、動き出し、前を行く電車を追いかける。この区間は東西線・豊平線という札幌を代表する二つの高速路面電車路線の系統が重複するほか、伏古線・札苗線の系統も走るため、ラッシュともなれば秒間隔で列車が行き来し、このようなダンゴ運転になることも決して珍しくない。次は大通電車センター、との車内アナウンスが入ると車内の乗客は、心なしかドアのほうに詰め始める。大通電車センターは札幌市のヘソともいえる、金融商業をはじめあらゆるテナントが集まる大通西四丁目界隈に立地するとともに、市電のほとんど全ての系統が集中し、唯一の本格的地下鉄路線である南北線との乗り換え駅でもある、札幌市交通局の一大中心で、ここから札幌市内のあらゆる場所に行けるといっても過言ではない。結果、ここでほとんどの乗客が入れ替わることになるのだ。西四丁目駅前通りとの交差部分を幸いにして赤信号に引っかからずに走り抜けたところで、線路が網の目状に複雑怪奇に分岐、電車はポイントを通過する際のゴトトン、ゴトトンという独特のジョイント音を響かせながら大通電車センターの巨大なドーム屋根の下に滑り込んだ。
 
西八丁目←大通電車センター→テレビ塔前
 
 市電の大半の系統が集まり、地下鉄南北線とも接続する、札幌市電の中枢。東西線開業時は二面三線と小規模だったが、市電路線網の拡充とともに増改築を繰り返し、平成9年に4面6線を有する現在の姿になった。
 発着番線は南大通方から@〜G番線まであり、@番線からは東西線西方面への路線A番線は、豊平線と東西線のさっぽろ駅方面用、B・C番線は伏古・札苗線・新川線の発着用(このホームのみ他より一段低くなっていて低床車に対応)、D番線は東西線新札幌(さっぽろ駅始発便)・豊平線真栄方面用、E番線は東西線新札幌方面用(円山公園・琴似駅前・山鼻始発便)となっている。
 開業当初は、地上改札口も有していたが、現在では電車の本数が増え、地上ホーム間の平面移動が困難になったため、各ホーム間の連絡は地下通路で行われていて、改札口も地下街ポールタウン・オーロラタウンと直結して地下にあるため、駅は地上、改札口は地下という珍しい構造になっているのが特徴。
 私の乗った電車は大通電車センターの二番線に到着。ここでは車輛両側のドアが全て開く。二番線は両側にホームがあり、進行方向左手のドアから降りれば1番線円山・琴似・山鼻方面、右手のドアから降りれば、東苗穂・新川・豊平方面へ向かう各線と同一平面上で乗り換えができるようになっているのだ。ここで、下車客の波に押されるように私も降りてみる。私の乗った直行電車はこのあと「さっぽろ」まであと二駅走るのだが、その部分の乗車レポートは系統がかぶる豊平線の紹介時に譲り、この先は各駅停車に乗り換えて東西線の終点、円山公園や琴似駅前を目指すことにしようと思う。が、その前に一日の乗降客数七万人の日本最大の市電ターミナル、大通電車センターをじっくりと観察してみよう。

 都心部にある関係で決して広くはないその構内に四面六線を詰め込みんだラッシュ時の大通電車センターは壮観である。装いこそ鮮やかなライトグリーンの札幌カラーに揃えつつも、昔からの丸っこい車体の電車、一見して郊外電車風の豊平線車輛や、東苗穂地区への路線用に最近登場した100%低床車など様々な形式の電車が各ホームにひっきりなしにやってきては、どっと乗客を吐き出し、吸い込み走り去っていく。ラッシュ時には最大長120mのホームを生かして、同一ホーム上に二列車が停車することも日常茶飯事である。それらの電車が発する音も釣り掛けモーターの重々しい音から最新式VVVFインバーター制御の賑やかな変調パルス音まで様々で、鉄な方なら、ここで、一日ぼんやり佇んでいるだけでも楽しいだろう。南の広島と並んで札幌が北の路面電車博物館と称される所以である。ここでのお勧め休憩スポットは、この電車センター二階にある喫茶店Tramway。昭和51年の電車センター開業時からずーっと下を走る電車を見守り続けてきたこの喫茶店のカウンターでコーヒーをすすりながら下を行く電車を見続けるのも鉄としては悪くはない時間の潰し方だ。最近は札幌でブームになっているスープカレーも始めたそうで、その筋の方にも結構有名な店になっているらしい。お腹の空いた方はここで食事もどうぞ。入場券がかかるので割高?いやいや、喫茶店を利用した方はあとで入場券を払い戻してくれるのでご心配なく。

 さて、Tramwayでコーヒーをすすりつつ行き交う緑の電車を見ながら時間を潰し、ラッシュをやりすごした私は、円山・琴似・山鼻方面への一番ホームに降りる。地下鉄と違い、路上も走るためか、高速路面電車線といえどもどうしてもダイヤ通りの運転ができない場合が多い。このため、時刻表はホームには掲示されていない。その代わりに電光掲示板が充実しており、電車の運行状況や運行経路が一目で把握できるようになっている。それによれば先発「琴似駅前」行き、到着まであと1分、次発「山鼻電車センター」行き、到着まであと4分とのこと。それでは琴似駅前行き電車に乗ってみるとしようか。

 ほどなくテレビ塔前方向から電車がやってきた。先ほど乗った電車と同じ形の三車体連接車だ。ここで乗客の大半が入れ替わるので、買い物にやってきた主婦らしき女性とか、フレックスタイムが導入されているの会社に勤めているのかスーツ姿の男性などの下車客が降りきるのをのをしばし待つ。ラッシュは過ぎたためか、先刻の直行電車のような混雑はないが、それでも座席の八割方を埋めて電車は出発した。

 大通電車センターを出た直後、さっぽろへ向かう路線と円山・琴似方面に向かう路線が併走し、一見複々線のように見える区間となるが、すぐにさっぽろへの路線は地下に潜って別れた。この地下線はもともと大通電車センターの地下留置線だったが、豊平線の一部地下化、真栄までの路線延伸と同時にさっぽろ地下駅まで西七丁目地下線として延伸整備された区間で、この路線の開業とともに東西線からも先程私の乗った直行電車のように「さっぽろ」への直通系統が新設された。ちょうど、そのトンネルから豊平線用の電車が軽快に駆け上がって来るところを、私の乗った電車がすれ違う。あちらの電車とは対照的に、こちらはゆっくりのんびり。大通公園上の専用軌道を走るとはいえ、時折軌道を横断する歩行者に気をつかうため、その最高速度は時速40kmがせいぜい。日本初の本格的LRT路線とはいうものの東西線の西側区間は東側区間とは異なり併用軌道も多く、まだまだ路面電車らしい風情を多く残しているといえる。

 完備された電車優先信号のおかげで、一度の信号待ちもなく、電車は大通のビルの谷間をスイスイと走り、生い茂る緑の木々に囲まれた西八丁目電停に到着した。
裁判所前←西八丁目→大通電車センター
 西八丁目電停のある大通西八丁目の一角は、大通公園の中でも緑豊かなところ。付近にはホテルが目立ち、ここで下車する観光客も多い。もちろん有改札電停である。

5.裁判所前〜琴似駅前へ
 
写真@

 東1丁目から大通公園を見たところです。仮想市電は中央の緑地帯の部分を走っていると想定。
写真A

 仮想テレビ塔前電停付近です。
写真B

 テレビ塔直下から地下鉄大通駅まで続く地下街オーロラタウン。
写真C

 大通西二丁目。市電路線は写真の左端を専用軌道で走っているということにしています。
写真D

 大通西四丁目。仮想大通電車センター付近です。人がやたらとたくさんいますが、普段はこんなにいません。写真を撮影した日にたまたまよさこいソーラン祭りが行われていたのです。アンチよさこいの私としてはウザいこと限りなし。
写真E

 大通西七丁目。このあたりまで来るとテレビ塔もだいぶ小さくなりました。電車軌道はこの写真の右端、写真からはみ出たあたりを走っていると想定。しかし、人が多いな。
写真F

 西八丁目電停付近。このあたりは公園のなかの公園になっていて、大きな滑り台があったり、遊具があったりして、大通りの中でものどかな一角。木が生い茂っています。電停はこの写真の左端あたり。